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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)252号 判決

上告人 野田博

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人瓜谷篤治の上告理由第一点について。

論旨第一点の要旨は、「本件農地は、自創法五条五号により買収除外の指定をすべき土地であり、かように除外指定をなすべき土地を、この指定をしないで買収することは、買収処分の重大な違法事由を構成するものである。また、買収に当つて目的地が右除外指定をなすべき土地であるということは関係行政庁に明白であつたはずであるから、本件買収処分には明白な違法があるものと解すべきである。従つて、本件買収処分には重大・明白な違法があるものとして当然無効と解すべきであるのに、原判決が上告人の無効原因として主張した事実につき何等審理することなく本件買収処分を無効でないと判断したのは、法令の解釈を誤り、審理不尽の違法に陥つたものである」というにある。

しかし、自作農創設特別措置法五条五号により買収除外の指定をすべきものをこの指定をしないで買収することは違法であり、従つて取消事由とはなるが、それだけでは、当然に、重大・明白な瑕疵として無効原因となるわけではない。すなわち無効原因となる重大・明白な違法とは、処分要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大・明白な誤認があると認められる場合を指すものと解すべきである。たとえば、農地でないものを農地として買収することは違法であり、取消事由となるが、それだけで、当然に、無効原因があるといい得るものではなく、無効原因があるというためには、農地と認定したことに重大・明白な誤認がある場合(たとえば、すでにその地上に堅固な建物の建つているような純然たる宅地を農地と誤認して買収し、その誤認が何人の目にも明白であるというような場合)でなければならない。従つて、無効原因の主張としては、誤認が重大・明白であることを具体的事実(右の例でいえば地上に堅固な建物が建つているような純然たる宅地を農地と誤認して買収したということ)に基いて主張すべきであり、単に抽象的に処分に重大・明白な瑕疵があると主張したり、若しくは、処分の取消原因が当然に無効原因を構成するものと主張することだけでは足りないと解すべきである。しかるに、原審における上告人の主張は、五条五号により買収除外の指定をなすべき土地を右指定をしないで買収したから本件買収処分は無効であるというのであつて、右主張は、ひつきよう、買収除外の指定をなすべきものをこれをしないで買収することが当然に無効原因となるとするものにほかならず、かような主張は、無効原因の主張としては、主張自体理由がないものというべきである。(所論引用の判例は、買収除外、の指定をなすべきものをこれをしないで買収することは違法である旨を判示したものに過ぎず、そのことが当然無効原因となる旨を判示したものではない。)右と同旨に出た原判決は正当であり、所論は採用し得ない。

同第二点について。

所論の土地は、本件買収計画樹立当時すでに特別都市計画事業西宮市戦災復興土地区劃整理施行地区内にあり、現在、区劃整理の結果道路敷地となつているような土地であるから、これを買収する処分は、重大・明白な違法があるものとして当然無効と解すべきである、というにある。

そこで考えてみるに、論旨は、(イ)区劃整理施行地区内の土地はすべて当然に買収除外の指定をすべきものであるから、これをしないで買収処分を実施することは当然無効の原因を構成するとの趣旨であるか、(ロ)論旨指摘の土地は区劃整理地区内で具体的に買収除外の指定をするのが相当と認められる土地であるのに、右指定をしないで買収を実施したことが当然無効の原因を構成する、との趣旨であるか、以上いずれかの趣旨と解される。しかし、五条四号の法意は、土地区劃整理区域内の農地で知事が買収除外を相当と認めて除外指定をした地区内の農地に限り買収を許さないとする趣旨であつて、(イ)の趣旨でないことは文理上明らかであるから、論旨の趣旨を(イ)の趣旨に解する場合には、これを採用し得るものでないことはいうまでもない。論旨を(ロ)の趣旨に解しても、かような主張が、無効原因の主張として、主張自体理由のないものであることは第一点の論旨に対して述べたところと同様である。すなわち、買収処分が当然無効であることの主張としては、単に、区劃整理区域内の農地で買収除外を相当とする土地であるにかかわらず買収が実施されたものである旨を主張するだけでは足りず、右の誤認が重大・明白な誤認であることを具体的事実に基いて主張すべきものであり、かような具体的事実に基く無効原因の主張のないものは、主張自体理由がないものとして排斥さるべきものである。なお、論旨は、論旨指摘の土地が現在、区劃整理の結果道路敷地となつている旨を主張しているが、買収計画当時において、すでに、明確に道路敷地として予定線内にはいつていたという場合は格別、単に買収処分が終つた後に、その後の区劃整理事業の進転に伴い道路敷地となつたというだけでは、すでに効果を完了した買収処分が遡つて違法・無効化することのあり得ないことは、いうまでもないところである。それ故所論は採用のかぎりでない。

同第三点及び第四点について。

上告人の原審における主張は、自作地の部分を小作地として買収したから、右部分の買収は当然無効であるというのであるが自作地を小作地と誤認して買収したというだけでは、無効原因の主張としては足りないものであることは、第一、二点の論旨に対して述べたところと同様である。所論は採用のかぎりでない。

同第五点について。

農地買収処分は、(1) 市町村農地委員会による計画の樹立、(2) 県農地委員会の承認、(3) 知事の買収令書交付の三段階により成立する処分であつて、買収処分の重要・不可欠の構成要素と目すべきものは(1) (2) (3) に尽きる。もつとも、自作農創設特別措置法八条は、県農地委員会が承認を下すについては、異議の決定・訴願の裁決を待つてこれをなすべきものとしているが、それは、主として、異議・訴願に対する判断いかんによつては(計画が取り消された場合)、爾後の手続を進行することが無益に帰する場合のあり得べきことを虞つて、異議・訴願に対する判断の結果を見た上で爾後の手続を進行すべきものとする趣旨から出たものに過ぎず、異議・訴願の手続において不服申立人に聴問の機会を保障し、これらの手続における審理の結果を基礎として(2) (3) の手続を進行すべきものとする趣旨から出たものでないことは明らかである。従つて、異議の決定・訴願の裁決がなされる前に爾後の手続が進められたという違法は、買収処分の重大な瑕疵としてその無効原因を構成するものと解すべきではなく、後に異議却下、訴願棄却の裁決があれば、これにより右瑕疵は、治癒されるものと解すべきである。それ故所論は採用のかぎりでない。

同第六点について。

論旨は、ひつきよう、原判決が、本件処分に無効原因がなく、出訴期間の制限に服すべきものと判断したことが失当である旨の第一点乃至第五点の主張を、憲法違反の主張に言い換えたものに過ぎず、その理由のないことは前論旨に対して説明したとおりである。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 島保 河村又介 垂水克己 高橋潔 石坂修一)

上告理由

第一点

一、原判決は自作農創設特別措置法第五条第五号の法意を誤つた判決であり、その法令違反は判決に影響を及ぼすものであるから破棄を免れない。其の理由は次の通りである。

上告人は原審第四準備書面(イ)に於て「本件の各土地は、すべて農地的要素極めて乏しく、自作農創設特別措置法(以下法という)第五条第五号に所謂『土地使用の目的を変更することを相当とする農地』に該当する」と主張し且つ「この様な土地については法第三条による買収計画を樹立するに当つては市町村農地委員会は都道府県農地委員会の承諾を得て同法第五条の第五号指定をした上此を買収の目的より除外すべきものである。(中略)右指定を行わず買収計画を樹立する事は違法であり此の様な買収計画に基く(中略)買収処分も違法(中略)であつて本件買収処分も明に無効である」と主張し、その農地的要素が少いか否か等の点を明にする為現状の詳細を述べた上検証並に証人調の申出を昭和三十一年二月四日の口頭弁論期日になしたのである。然るに原判決は右証拠調は一切なす事なく単に「これらの事実は何れも買収処分取消の理由となる事はあつても、これを当然に無効たらしめる事はない」と判示して控訴を棄却したものである。然し右は法第五条の法意を誤解し行政処分の無効の法理を誤つたものといはねばならない。

二(イ) 抑々法第一条により明な通り、同法による買収売渡の目的は耕作者の地位を安定し且つ労働の成果の公正な享受のために、自作農を創設し、而して此れにより農業上の土地の利用の増進により農業生産力の増進と農村に於ける民主的傾向の促進をはかるにある。従つて右の法律が日本国憲法に定むる所有権不可侵の大原則に対する一大制限として認めらるる所以も亦其処に在るものというべきであつて、右の法律の原則的な目的に反する買収計画の樹立及びそれに基く買収処分というのは単に取消され得べき行政処分と原判決の様に簡単に結論し得るか否かは極めて疑はしい所である。

(ロ) 本件に於いて上告人は、本件各土地について法第五条第五号に所謂近くその用途を変更するを相当とする土地であつて買収計画より除外すべきものとして指定をなすべき土地であると主張した処、右の主張について実体につき全然調査しないで此を排斥したものであるが、右の主張事実が若し存在しているとすれば、此は地域の狭い西宮市の事であつて、計画樹立の当時当然西宮市農地委員会(以下市委員会という)に於いて知つていなければならない筋合であつて、それにも拘らず此を兵庫県農地委員会(以下県委員会という)の承認を受けて買収計画より除外せずして買収計画を樹立し且つそれに基き買収処分をなしたものであるから、其の違法は既に御庁昭和二十四年(オ)第三二五号事件に対する御庁の判決に於いて明にされている処である(最高裁判所判例集第九巻第四号一頁以下)、而して、斯る違法は単に出訴期間内に訴の提起された時のみ取消さるる様な違法でなく無効な行政処分とされねばならないのである。

(ハ) 本件の各農地の様な宅地的要素の多い土地に於いては此を買受け(無効であるが)た者は極めて安価な価格で買受け、而も比隣が宅地であるから種々の名目を設けて数百倍数千倍の価格で他に転売或は用途変更の手続をする事に腐心している。これは周知の紛れもない事実である。この様な事柄を将来する為に法による買収売渡がなされるものでない事は明な処であろう。元所有者が所有していたならばそれが土地の発展により適法に宅地として用途変更をしてその差額を取得出来る筈の土地が買収売渡によつて耕作者の手に入つても黙つて見ていねばならぬという所有権不可侵の原則の例外が認められるのは要するに買収が法第一条の精神によつて行はれるからに外ならない。然るに本件の場合本件各土地の買収当時の状況が上告人の原審に於いて主張する通りであるとするならば斯る土地を買収して此を耕作者に売渡す事は決して農業の生産力の増加に寄与するものではなく、むしろその土地が分散点在する事により生産力の増加の障害になるものであり、農村の民主化に役立つよりも地価の不当な値上りの差額収得に伴う暴富による仮装農民のボス化に役立つ丈である。而して本件土地がその様な性質の土地である事は買収処分当時の市委員会に於いて明な処であるのは西宮市の地域の狭小な事からして当然である。

右の諸点を併せて考える時、本件の土地についての上告人の主張する事実があつたとすればその違法は法の立法精神に反する重大な違法であり且つその違法の事実は市委員会に於いても県委員会に於いても明白なる処であつた。斯る重大且つ明白なる違法は明にこの買収を無効たらしむるものであり単に、取消し得べきものという原判決は法第五条第五号の解釈を誤つたものである。原判決は上告人の主張する事実を証拠により認定した上その無効なりや否やを判断すべき筋合である。

三、以上の次第であるから原判決は法令の解釈を誤つた上審理を尽さなかつた違法あるものであつて到底破棄を免れない。

第二点

一、原判決は法第五条及四号の解釈を誤つたものであり、その法令違反は判決に影響を及ぼすものであるから破棄せらるべきものである。

上告人は原審第四準備書面三(ロ)に於いて「表示番号6ノ一乃至六、9ノ一はすべて特別都市計画事業西宮市戦災復興土地区劃整理施行地区内にある。(中略)法第五条第四号によつても兵庫県知事はその指定をなすべき所である。(中略)その指定がなくても此を買収計画に入れるべきではない。(中略)この点からしても右土地に対する買収は無効である」と主張した。(原判決中の事実摘示中控訴代理人の二(ロ)は少し簡略にすぎ上告人の主張とやゝ一致しない)

此に対し原判決は上告理由第一点一に於いて引用した文言を以つて此れを単に取消し得べき事由たる事はあつても無効とする事はないと述べて此の主張を何等の説明を用いず排斥した。これ亦前同様法の精神を無視したものである。

二、右の各土地が前項記載の区劃整理地区内にあり、而もその事は買収計画樹立の昭和二十三年始頃には既にそうであつた事は甲第三十号証、甲第三十一号証により明な処である。右の様に買収計画樹立当時既に都市計画地区内にある場所は知事の除外指定を求めて買収計画より除外すべき事は法の精神より考えて当然の所であり、仮りに知事の指定がなくても此を除外して買収計画を樹立すべく、然らざる買収計画の樹立及びそれに基く買収処分が違法な事は上告理由第一点二(ロ)と引用した御庁の判例に於いて既に明にした処である。而して斯る違法は、右各土地の様に区劃整理の結果現に道路敷となつている土地(前記準備書面及び検証の申請参照)について買収の如きが法の目的とは副はざる事は明であり、その違法たるや極めて重大なものであり又その区劃整理地区内にある事は当時の市委員会に於いては明白な事柄であつた事に鑑みる時は、その違法も亦明白な処であつて斯る違法は無効な違法であり取消し得べき違法というのは当らないといはねばならない。若しそうでないとすると単にその土地を耕作していたという丈で、本来所有者たる上告人が取得すべき換地を売渡を受けた者が取得し、不当に利得をする結果丈をもたらし、耕作者の地位の安定の目的は勿論、農業生産力の増大にも農村の民主化にも何等寄与する所なき結果を生み出す丈であるからである。即ち、表示番号6ノ一乃至六、9ノ一に対する様な買収は出訴期間の経過によつて排斥される様な軽微な違法でなく当然に無効とせらるべき重大且つ明白な違法である。

三、以上の次第であるから、仮りに上告理由第一点に述ぶる所が許されないとしても、右土地については必ず原判決は破棄の上更に相当の御裁判あらん事を求むる次第である。

第三点

一、原判決は民事訴訟法第三百九十五条第一項第六号に違反し判決に理由を附さなかつた違法があつてその点に於いても亦破棄を免れない。

即ち上告人は原審第四準備書面三(ハ)に於いて「表示番号13の大塚町十七については(中略)その南の部分四畝一歩は控訴人の自作地であつて買収すべからざるものである。然るに被告国は此の点を看過し、北部の小作地たる一反二畝二十七歩の部分を分筆し買収する事なく大塚町十七を全部買収したものであつて此亦違法たる事を免れない。」と主張しその立証として甲第三十二号証を提出しており、然もその立証事実については被上告人は此を争つているが小作地と誤認した事は認めているのである。然るに原判決は右争ある事実について上告人が申請した証人により事実を確定せず何等の説明をも用ひず上告理由第一、二点に於いて引用した文言のみにより此を取消事由となる事はあつても無効たらしむる事由でないと判示したのである。然し乍ら若し此れが原審に於いて被上告人が触れた通り世帯員によつて耕作している場合ならば法第三条第一項第二号及第二条第二項の規定上此の土地に対する買収は当然無効な行政処分と判断すべき処である。然るに原判決は右事実の存否につき何等確定する事なく慢然前記の様に判示したのは判決に於ける理由不備の違法あるものであつて破棄せらるべきものと確信する。

第四点

一、原判決は法第三条第一項第二号、第三条第二項の解釈を誤り右規定の本件に於ける違反による買収を以つて無効なる行政処分となさず単に取消し得べき行政処分として上告人の主張を排斥したもので右の法令違反は此亦判決に影響あるものにして、この点に於いても破棄を免れない。

即ち上告人は表示番号13の大塚町十七につき原審第四準備書面三(ハ)に於いて上告理由第三点で引用した通り主張したのである。

然るに原判決は第三点引用の通り此を取消の原因であつても無効たらしむるものではないと判示したのである。これは明に法第二条第二項、第三条第一項第二号に違反するものといふべきである。

二、即ち憲法の所有権不可侵の大原則の例外としての法による買収が許されるのは法第一条の法の目的の精神に適合した買収が行はれるからである。而してその為に法は各種の定義なり手続を定めている。此の法の各個の規定に違反する事は其の法の精神に対する違反の重大性の大小等によつて或は無効となり或は取消し得べき行政処分となる。明白にして重大な違反が行政処分の無効を来す事は当然である。

前項主張の土地に関しては其の自作地たる事は甲第三十二号証によつても明な処である。即ち土地の中、南の部分四畝一歩については買収処分は形式上なされて居つても売渡はなされていない(此の事実は被上告人に於いても認めている。昭和二十五年十二月十一日付第一審被告準備書面)のであつて、西宮市に於いても其の事実を了知していればこそ甲三十二号証を上告人に発行したものである。

市委員会と同一場所にある西宮市が右の行為をなした事は明に右部分が上告人の自作地であつた事を西宮市、従つて市委員会が知つていたものといふ事を明にするものといはねばならない。果して然りとするならば市委員会は自作地たる事明白な右四畝一歩を分筆する事なく北方の一反二畝二十七歩が小作地であつたから此をも含めて一括買収したものであつて法第二条第二項、第三条第一項第二号に違反したものといはねばならない。而してその違法たるや法の基本観念たる小作地買収の規定に違反したものであるから、重大なものであり、又何人にとつても明白たる事実である。のみならずその地域は阪神国道に北接する極めて宅地的要素の多いものである事は前記準備書面三(イ)に於いて詳述した所である。従つて以上すべての点を綜合して考えれば右土地に対する本件買収処分が無効な事は明白な処といふべく此を単に取消し得べき処分なりとして上告人の請求を排斥した原判決は此の点に於いても破棄を免れない。

第五点

一、原判決事実摘示に於いて明な通り上告人は第一審に於いて主張した本件買収処分の前提たる買収計画に対する県委員会の承認の決議が無効である事、並にその無効な承認を前提とする本件買収処分が無効である事を原審に於いても主張しているのに対し原判決は前示各上告理由引用の同一文言により此を何等の説明をなさず単に取り消し得べき行政処分たる事はあつても無効たる事はないと簡単に一蹴したのである。右の判示は法第八条の規定の解釈を誤り且つその違法は判決に影響を及ぼすものであるから破棄せらるべきものである。

二、法第八条によると買収計画に対する異議訴願のあつた場合はそれらがすべて解決した後に市町村農地委員会が県農地委員会の承認を受くるべき事を定めている。その趣旨は異議訴願をなす権利、或はその異議訴願の裁決の内容に影響をもたらさず公平な裁決がなさるる様という趣旨に他ならない。この規定に違反した承認及此に基く買収は此は単なる取消し得べき違法とする事は国民の所有権に対する制限たる法の規定の中不服申立についての最も重要な部分に対する違法の重大性を看過するものであつて到底許され仁いものである。即ちその違法たる事は、既に原判決或は第一審でも明言しているが此を以つて無効なる行政処分とするのでなければ憲法の大原則たる所有権の保護は完ふされないのである。此の主張を出訴期間経過の理由を以つて排斥した原判決は極端にいうならば中世の暗黒時代の切捨御免的思想であつて到底許されないと考ふべきである。

第六点

原判決は憲法第二十九条に違反する。即ち前記上告理由第一、二、三、四、五点に於いて詳述した各個の法令は、すべて財産権の不可侵に対する例外として憲法第二十九条第二、第三項に則り制定されたものである。然るに此に違反した行政処分たる本件各個の違反処分を出訴期間経過の理由のみを以つて此を排斥した原判決は明に憲法第二十九条に違反するものであつて到底破棄を免れない。右の通り上告理由を明にする。

以上

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